“エキスパート”―――当社では優れた技術者に与えられる称号で、会社の中核を担う存在です。社内のさまざまな課題、お客さまの技術的な相談事項に解決の道すじを示し、日々、重要な決定を下していく。相談の内容は、部門の壁を越え多岐にわたります。
胸にその証である胸章をつけ、颯爽と歩く姿は若手社員のあこがれの的です。そんな“エキスパート”たちは、何を考え、行動しているのか?若手社員に対する思いは?どんな人と働きたい?
“エキスパート”×若手社員による座談会の様子をお伝えします。
自己紹介
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学生時代の専攻は電気です。1991年度入社で、開閉器の品質保証からスタートしました。その後、自身の希望で開発設計グループに異動し、遮断器や断路器、開閉器の開発に携わってきました。
現在は開閉装置の設計部門で若手の育成に力を入れています。2017年にエキスパートになりました。 -
学生時代の専攻は化学です。2016年度入社です。M.Iさんと同じグループで、開閉装置の設計を担当しています。開閉装置は複合機器で、遮断器や断路器の要素があります。電気や機械に関する色々な知識を網羅できる装置なので、たいへん勉強になります。
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1999年度入社で、主に電力会社の変電所、電鉄などの電力回線をON/OFFする気中断路器の設計・新製品開発に入社以来携わっています。大学の専攻は電気科で、制御工学の研究室に所属していました。学生時代、電力工学分野をなんとなく敬遠していたので、高電圧・大電流を扱う部門に配属されて「これはまずい!」と思ったことを覚えています。しかし、周りからサポートを受けながら、職場の仲間たちと力を合わせてやってきました。
2017年にエキスパートになりました。 -
学生時代の専攻は電気です。2016年度入社です。K.Nさんと同じ断路器製造部で、配属直後は開発業務を、現在はお客さまからのご注文やお問合わせに対する設計検討や部品手配の業務を担当しています。
苦労や失敗エピソード
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T.M エキスパートとして成功されているお二人ですが、苦労や失敗したエピソードはありますか?
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M.I 最初に失敗の経験を聞くのね(笑)
圧倒的に失敗の経験のほうが多いです。バブルの時期はひとりで3テーマくらい抱えていました。3つのうち、製品化に至るのが1つあれば良いほうです。けっこう失敗が許された時代だったんです。
ある開発品で、温度変化に対する耐久性を検証しました。容器内に絶縁油を入れ、ヒーターで100℃まで加熱し、装置の動作を確認する試験です。最初は調子よく動いてましたが、80℃を超えると急に油膜が切れるんです。壊れる前に装置を救出しようと、熱々の油に手を突っ込みました。手袋はしていたけれど、熱くて救出途中で手を離してしまい、ガッシャ―ン・・・!と落としちゃったことがあります。装置は壊れるし、私は油まみれになるし。二度とこんな思いは嫌だと、軸受けをすべて転がり軸受にして無事製品化にこぎつけました。 -
E.I 転がり軸受にすることで、潤滑の必要性をなくしたんですね!失敗から生まれた成功体験ですね。K.Nさんは、ご苦労・失敗した経験はお持ちですか?
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K.N 自分の成長段階によって失敗や苦労・挫折感の程度は変わるものですが、いちばんつらかった経験をお話しします。
2011年、東日本大震災の巨大地震で当社断路器も被害を受けました。そののちに取り組んだ破損原因究明と耐震製品開発プロジェクトでのことです。
お客さまから「今後は、同じクラスの地震の発生を想定し、従来の耐震設計基準に対して2倍以上の強度を持つ製品が欲しい」という依頼を受けました。
これは野球にたとえるなら、球速80km/h級のステージでプレイをしていたバッターが、ある日突然、160km/h級のステージで結果を出せ、と言われるくらいの難しさなのです。製品の開発は難航し、お客さまの要求に応える提案を出せずにいました。
打合せの席で、「はぁ~(ため息)、この設計案ではダメですね」と、いらだったお客さまに、ぽーん、 と鉛筆を投げられたこともありました。お客さまへ提案し、駄目出しを食らい、オフィスに戻ってアイディア・部材・方法をレビュー、解析検証を行う・・・そんな日々の繰り返しです。ようやく試作にこぎつけたと思ったら、検証試験で部品が曲がって製品が壊れてしまったこともありました。
設計・製造・品質保証メンバーが一丸となって取り組みましたが、お客さまの要求・期待になかなか応えられなかったあのときは本当につらかったです。
最後までやりとげることができたのは、「日本の電力のため・壊れない製品をつくる」という、がむしゃらな使命感があったからです。 -
T.M 使命感、かっこいいです。何度も、トライ&エラーを繰り返して、あの耐震型断路器は出来上がったんですね。
モノづくりの根底にあるもの
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T.M 失敗談・苦労の経験をお聞きしましたが、そんな経験を重ね今なお、モノづくりの最前線でご活躍されています。その根底にあるものは何でしょうか?
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K.N 何ごとも骨惜しみしない、ということを心掛けています。そして、「また次もK.Nに案件をお願いしたい」とお客さまに思ってもらえるように取り組んでいます。そのモチベーション、モノづくりへの原動力は、少年時代に原点があります。
小学生の頃、授業で見たテレビ教材で、男の子が将来について「なりたいと思う職業はまだないけれど、教科書に載るような人になりたい!」と言ったのが心に刺さって、その後、就活時も入社してからも、その言葉をたびたび思い出しては自分を奮い立たせていました。
しかし社会人になったある日、ふと思いました。「もうオレは教科書に載れないな」と。
そこで考えたんです。自分が製品を作って世に送り出したり、 論文を書いたり、特許を取得したりすれば、後世にそれらは残る。教科書には載れなくても、そうやって名前を残すことができる、と。当社は「論文を書いて学会で発表してみない?」とか「特許をとろうよ」とか、いろいろチャンスをくれますよね。また、電力製品メーカの大手なので製品規格作成の場に携われますし。そういうチャレンジを積み重ねて、気づくとエキスパートへのチャンスをもらっていました。
M.Iさんはそんなエピソードある? -
M.I そうですね、私も小学生までさかのぼります。1年生の図工の時間に、粘土で動物を作ろうという授業がありました。
美術センスが非常に高い友達がいて、とてもきれいなステゴサウルスを作りました。
いっぽう、私の作ったティラノサウルスは爪の跡が残り、表面はガサガサで見た目は悪かった。だけど、1つ工夫をして、口からお尻まで穴を通して、口から玉を入れるとお尻から出るギミックを施したのです。
クラスの誰もが、きれいなステゴサウルスが一番だと思った。
ところが先生は「どちらも一番だ!」と言ってくださった。
見た目の美しさだけではなく、機能・ギミックを作ることへの評価が世の中にはあるんだ、と後々まで心に残った出来事でした。 -
E.I おふたりのものづくりへの情熱は、子供の頃に原点があったのですね。
技術者として心がけていること
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E.I 日々の仕事の中で、心がけていることを教えてください。
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M.I ある漫画に「諦めたら試合終了」という言葉がありますが、日々、そういう思いでやっています。仕事を引き受けたからには、最後までやりきる、という気持ちを持つ。
また、技術者として、どうしても重要な決断を下さなければならないときがあるんです。
100%の自信はなくとも、図面を描き、製品として世に出したからには、たとえ何があっても自分で何とかする、という覚悟をもつ。いつも自分に言い聞かせていることです。 -
K.N タスク・背景の本質を捉えているか、芯を食った仕事ができているか、ということを常に問うています。「何となく、こうだろうな」という感覚で設計を進めた製品はうまく形にならないことが多い。やみくもに感覚的に仕事を進めるのではなく、問題のコアを確実に掴まえるよう心掛けています。若手の2人はどう?
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E.I 私は「過去の設計を鵜呑みにしない」ようにしています。私はまだ知識を吸収している段階なので、過去の設計を参考にして製作することが多いです。でも、過去の設計をそのまま考えずに流してしまうと、自分の経験にも知識にもなりません。過去の設計を鵜呑みにせず、いったん自分の中に落とし込む。その過程で、お客さまの仕様と一致しているか、作る人の目線で作りやすい図面になっているかを考えるようにしています。
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T.M どのような背景でお客さまからご注文をいただいたのか、を意識しています。「他に必要な部品はないか」「不要な部品はないか」「形状や組み合わせに不備はないか」など、お客さまの目線に立った提案ができるよう努めています。
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K.N なるほど、いい心がけだと思うよ。これから2人にも技術者としてどんどん活躍してほしいな。
設計の仕事-変わるもの・変わらないもの-
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E.I 長年、設計をされているお二人ですが、若手設計者に対して思うところはありますか?
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K.N 今の若手は以前に比べ、製作現場での経験を得にくくなったと思います。例えば、部品図面を描くという工程を取り上げると、私が新人の頃は、まだ図面は紙媒体での運用だったので、設計者が紙図面を各部門に持参することが今より多くありました。時には検図部門まで図面を持って行き、自分の親よりも年齢が上だったりする大先輩と膝をつきあわせ、図面を見てもらっていました。
「こんな図面を描いていて、どうする!」とよく叱咤激励を受けたものです(笑)。
時には機械加工工場まで行き、「今からこの図面のものを加工するからよく見ておけ!」と言われて、加工に立ち会ったりもして。自分の図面で部材がどのように加工されるか、リアルを見る経験は勉強になりました。昔は不便だったがゆえに、現場でのコミュニケーションの機会が得られやすく、その過程で技術力がついたと思います。今は、図面は電子データで回るので、そういう経験は意識して自発的に動かないと得られない。
だから若手社員に、たまには現場も訪れるように、と指南しています。T.Mさんも現場に行ってもらったよね。
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T.M はい、連れて行ってもらいました。設計図面を製品にするために、どういう工程があるのかを考えずに図面を描いていた時期がありました。これはマズイということで、工場へ連れて行ってもらい、図面はこう置かれて、部材はこうセッティングして、こう加工する、と現場を見せてもらったんです。
実物を見ると見ないとでは、図面の書き方が全然違う、ということを身をもって知りました。現場を見ると、自分の図面を見て加工する人がいる、と後工程を考えながら描くようになるんですね。現場を見て、加工する人と話をすることが大事だということがわかりました。 -
M.I ものづくりの現場を見ることで、図面の質が格段に上がるよね。
新人は、図面のフォーマットに思考が引っ張られて、紙面上、ものをヨコ向きに描くべきところをタテ向きに描いてしまうことがあるのですが、製作現場を知っていれば起きないミスです。図面と加工方向に齟齬があると、作り手にとって作りにくくてしょうがない、ということがわかりますから。現場を見ることで、現実と合う図面が描けるようになる。
私も入社当初の自分のサインが入った図面を見ると、恥ずかしくて描き直したくなります(苦笑)。
若手技術者が図面を持ってきたときには「この図面は、どんな製作方法で加工しようとしているの?」と聞くようにしています。我々は絵描きではなく設計者であるという意識を持つことが大事ですね。E.Iさんはどう? -
E.I 私も最初は、図面を紙に落とし込むことしか考えていませんでした。作り手にとって作りにくい図面を描いていたな、と思います(苦笑)。私も、現場を見る機会に恵まれて、そのことに気づくことが出来ました。最近は、簡単な加工や組立は、自分でもやってみたりするんですよ!
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K.N 当社は、特に私の部門はそうなのですが、製品企画から設計・部品試作・組立、そして試験・開発完了・・・と、プロジェクトにおけるあらゆる工程に、若手のうちから関わることができます。ものづくりが好きな人にとってはやりがいのある魅力的な会社だよね。
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M.I 私も、そこは当社の魅力の一つだと思います。そして、自分で描いた図面がモノとして入ってきたときは、心底うれしいですね。手に持って、質感・重さ・温度…どれもが現実としてそこにあるという事実がなぜかうれしい。
みんなも技術者としてそう思わない? -
K.N E.I T.M うれしいです!
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K.N 製品が完成して、お客さまのお立会試験の時は、共に力を合わせてやってきた設計・製造・品質保証・営業の担当メンバーがそろってお出迎えです。
「見て見て、何か聞きたいことある?何でも聞いて!」という気持ち、達成感と誇らしい思いで一杯です。(笑) -
M.I お客さまがいらしたときは「ほめられ待ち」だよね。(笑)
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E.I 図面の描き方などは時代とともに変わりますが、モノづくりの喜びは時代を経ても変わらないものですね。
上司・部下のコミュニケーションについて
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M.I グループ内でのコミュニケーションについて若手に聞いてみたいんだけど、どう?
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E.I 上司や先輩は、間違っている時はきちんと教えてくれます。わからないまま仕事を進めることはありません。それでも、「それは違う」と思った時は反論もします。活発なやり取りができる職場のほうが楽しいですよね。M.Iさんに相談するときは、逆に質問されても答えられるよう、勉強もして準備万端にしているんですよ!
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M.I 勉強をしてきてくれる子は教え甲斐があります。もうワンステップと思って、突き返すこともあるけど(笑)
E.Iさんは、やり直しで突き返しても「勉強してきます」と言ってくれるから楽しいよ。 -
E.I ありがとうございます。M.Iさんとのコミュニケーションは、私にとって成長の場です。T.Mさんのグループはどう?
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T.M 後輩からの質問が増えてきました。質問をされると、自分ではわかっているつもりでも、いざ答えようとするとわかっていなかった、ということに気づかされます。ですから後輩には、もっと質問してほしい、私の足りないところを気づかせてほしい、と思いますし、質問しやすい人になる努力もしなきゃいけないなと思います。
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K.N 教える側は、教わる側の5倍以上の知識を持っていないと上手く教えられないそうです。だから教えることはすごくいい勉強になるよね。
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M.I 学びの中で、困るのはインターネットです。答えだけが載っていて、そこに至るプロセスが抜けている。なんでこうなるんですか、と聞かれるんですが、そこに至るプロセスを分解してわかるように説明しないとならない。
5年後、さらにその先の目標
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E.I 皆さんの今後の展望を教えて下さい!
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M.I 現在は、最終意思決定までいろいろなプロセスを踏まねばなりません。
エキスパートとして問題解決を成功に導く経験を重ね、さらに発言力を持てるようになりたいですね。最終意思決定と同じくらいの発言力がほしいです。決してえらくなりたいわけじゃないですよ(笑)。 -
K.N 当社の断路器は国内シェアトップですが、アジアをはじめ海外でもさらにシェアを広げマーケットを席巻したいです。
断路器の製品技術は成熟していて、近年、製品の大幅なモデルチェンジはありませんでした。しかし現在はIoT・AI・ビッグデータ活用が推進され、あらゆるものがデジタル化され、新たな社会『Society5.0』へものすごいスピードでパラダイムシフトしています。 もちろん電力業界も同じトレンドですから、断路器もこの流れに乗れるよう、そして私も、次世代でも活躍できるよう、さらに技術力を磨いていきたいと思います。
次は若手2人の番だよ。目標や夢はある?
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E.I 短期目標は、お客さま、作り手のことを考えて、ベストな設計ができるような技術者になることです。
私の夢は―――この先、何十年、100年と使い続けてもらえるような製品を開発することです。当社の製品は50年単位の長いスパンで使われるものですが、技術は常に進歩していきます。常にキャッチアップし、AIやIoTも製品に取り入れていきたいです。
技術者として、製品が後世に残るってかっこいいじゃないですか。自分が去った後も、人々の生活を支え続けたいと思います。 -
T.M まずは、この人に任せておけば大丈夫!と周りに思わせるくらいの知識や経験を身につけたいです。そして将来は、「これは俺が作った!」と自慢できるような製品やギミックを作りたいです。ものづくりが好きな人は、自慢できるものを作りあげたいという「自己顕示欲」のようなものが大なり小なりあると思います。
その気持ちを忘れずに、日々業務に取り組んでいこうと思います。
就活生へのメッセージ
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T.M 就職活動をしている皆さんへ、エキスパートのお二人からメッセージをお願いします。
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M.I ものづくりが好きな方、大歓迎です!幅広い趣味をもち、よく遊び、よく仕事をする方がいいですね。
趣味の中からも、ものづくりのヒントになることはたくさんあります。私は車の改造が好きだった時期があり、車の下に潜ってエンジンに手をつけた経験は、今の仕事にとても役立っています。
また、どのような仕事にも言えると思いますが「その仕事が好きで得意」というのはそれほど多くないのではないでしょうか。「その仕事が好きではないけれど得意」であれば、上司や先輩に褒められると「好き」に変わってくる場合もあります。仕事をするうえで「好き」という感覚がすべてではないことをお伝えしたいですね。 -
K.N ダイバーシティやジェンダーフリーといった言葉どおり、いろいろな方々に入社していただきたいです。
外部のある研修に出席した時のことです。“イノベーティブな製品をつくる”というお題に対し、男性陣から「食材を入れたら料理ができあがる冷蔵庫」というアイディアが出ました。しかし、製菓メーカの女性メンバーから「できあがってしまうのはつまらないな。味つけ、仕上げは自分でしたい。」という意見が出て、 はっとするというアハ体験をしました。このように、男性技術者だけでは気づけないことはたくさんあるのです。
当社も、国籍・性別・専攻を問わず多様な方々に来ていただき、一緒に新しい製品を生み出し、社会に貢献していきたいと思います。 - ※内容は取材当時のものです。